実践から化学を学ぶことを通して“自ら考え、自ら実践できる人材”を育成します

アビガン(2)

こんにちは,高村です

非常事態宣言が解除されましたが,まだまだ新たにCOVID-19感染症に罹患する方が続いています。そのため個々人の自粛解除にはまだまだ時間がかかるかもしれませんが,インフルエンザと同様に毎年付き合っていく覚悟が必要なのかもしれません。新型コロナウィルスSARS-CoV-2はペットにも感染するようなので,ヒトー家畜ー野生の鳥ーヒトへの感染連鎖などが起き,変異の速さも手伝って,さらに高病原性へと変異して・・・という流れを個人的には気にしています(そんなことは起きないのかもしれませんが・・)。

さて,アビガン(1)の続きをいつまでほっとくねん!ってことでアビガン(1)の続きです。COVID-19に対してはまだ承認薬となっていません。

アビガンは薬としての名前で,抗インフルエンザ薬剤としてfavipiravir が化合物名になっています。開発したときの名前はT-705,正式には 6-fluoro-3-hydroxy-2-pyrazinecarboxamideといいます。RNAとかDNAの化学構造を見ていると気が付きますが,この構造,DNA(RNA)の塩基と呼ばれる部分(プリン,ピリミジン構造)によく似ています。こうした構造でどのようにウィルスに作用しているのでしょうか。

文献(Furuta Y.らProc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2017 Aug 2; 93(7): 449–463. doi: 10.2183/pjab.93.027)によると favipiravir で処理をした細胞からはFavipiravir ribofuranosyl-5′-triphosphate (favipiravir-RTP), favipiravir ribofuranose (favipiravir-R) , favipiravir ribofuranosyl-5′-monophosphate (favipiravir-RMP)の生成が確認されています。つまり細胞内でアデノシンがアデノシン三リン酸に合成されるように,favipiravir も細胞内のタンパク質(酵素)が核酸合成の原料として認識してリボース三リン酸体になっているということです。

インフルエンザなどのRNAウィルスは自身のRNA 依存性RNAポリメラーゼを用いて自己のRNAを複製しています。このときfavipiravir-RTPがあるとRNA合成の阻害が起きることがわかっています。試験管レベルの濃度では10microMで,インフルエンザウィルスのRNAポリメラーゼ合成がほぼ阻害されます。favipiravirそのものやfavipiravir-RMPでは阻害活性がないので,ウィルスが存在する細胞内でfavipiravir-RTPの形になっていることが重要です。

             Favipiravirは細胞内でリボース一リン酸,三リン酸へと変化する

原料であるfavipiravirが細胞に取り込まれ,さらに三リン酸へと変化する必要があるため,投与量としてはかなり多くを投与しないと効果が現れないことが推定されます。もともとインフルエンザに対する薬剤として開発されていますが,SARS-CoV-2のRNAポリメラーゼも阻害するかもということで期待されています。

現在承認されている薬としてレムデシビルがありますが,実は同様の細胞内における化学変化(代謝と言います)をしています。しかしこれはアジア系のヒトには効果がないことが懸念されています。

COVID-19に対する薬剤は他にも検討がなされています。そして,ワクチンの開発が待ち遠しいですね。